『侍女の物語』 – 忘れられない過去 –

読書

ある日突然、当たり前だったことが「当たり前」ではなくなる。
昨日まで使えた電子マネーが突然使用不可になったり、急に仕事をリストラされたり…。
今回はそんな恐怖を描いたディストピア小説『侍女の物語』を
私の感想を交えて紹介します。

この作品はカナダの女性作家マーガレット・アトウッド氏によって1985年に発表。
日本では1990年に出版、2001年に文庫化。

『1984年』『華氏451度』に並び、反自由の抑圧社会を描いたディストピア小説として
高く評価されている作品です。

※この記事では作品のネタバレを含みます。
また一部性的な表現も含みますので、その点ご了承のほどお願いします。

「侍女」とは何か?

作品名にもある「侍女」について説明します。

侍女とは「司令官の子を宿して出産する」という役割を担う女性の事。
侍女が出産した子は「司令官と妻の間に生まれた子」として育てられます。
不躾な言い方をするなら「子を産む機械」といったところでしょうか。
(日本においてもどこかの政治家がそんな事言ってましたね…^_^;

主人公のオブフレッドも侍女として司令官のフレッドに仕える事となります。

とはいえその子作りの儀式において快楽や愛などを求められることは一切禁じられております。
文字通り「子供を作る」という目的の為に行う行為です。
その上その儀式には夫である司令官、侍女、そして司令官の妻までもが立ち会うことを義務付けられています。
司令官の妻にとっては「夫の公開不倫」を見せつけられる様なもの。
故に侍女のオブフレッドと司令官の妻であるセリーナとの関係はお世辞にも良好ではありません…。

ちなみに司令官の妻が子を産まなくなったかというと、作品内の世界においては一部の健康な女性以外は子供が産めなくなってしまったから。
要因としては原子力発電事故による放射能汚染、大気汚染…など多くの環境問題の多発。
また性感染症の蔓延も要因として挙げられています。
よって出生率が大幅に減少。
ギレアデ共和国内において、数少ない健康な女性は「子を産む機械」として侍女養成施設で小母から侍女になる為の教育を受ける事を義務付けられています。
そして教育を履修し終えた女性は国内の支配者層に該当する司令官の元に仕える事となります。

男尊女卑の極み

かつてアメリカであった国にてキリスト教原理主義者たちによるクーデターが発生。
それを機にギレアデ共和国なる国家が成立。
本作品ではこの国を舞台にして物語が進みます。

この国では極端すぎるキリスト教原の思想に基づいた、恐ろしいまでに極端な男尊女卑体制が敷かれています。

女性はあらゆる権利や自由を奪われた状態。
仕事や財産の所持はおろか、読書や学習することまで禁じられています。
そして自分の名前すら剥奪されてしまう…。

主人公のオブフレッドも名前を剥奪された侍女。
侍女として仕える為の教育を受ける時点で本名は国に剥奪される。
司令官であるフレッドに仕える事が決まった時点でオブフレッドという新たな名を与えられたのでしょう。
名前の由来としては所有の前置詞の「of(オブ)」と司令官の名の「フレッド」を組み合わせたもの。
要は「司令官フレッドのモノである侍女」だという事ですね。
(ちなみにオブフレッドの本名に関しては最後まで判明しません)

外で働くのは男の役目、家事など家の仕事は女の役目…
そんな昭和の亭主関白など全く日にならない、恐ろしいまでの男尊女卑社会です。

フィクションではない!?

とはいえ「侍女の物語」という作品そのものはフィクションです(苦笑)
しかし超男尊女卑のギレアデ共和国、”子を産む機械”として扱われる侍女という役職…
それらの設定は作者のマーガレット氏によると、現実の世界で起きている風習や文化を参考にして作られているそうです。

忘れられない過去

この作品においては、

  1. オブフレッドが侍女として生きる現在
  2. 侍女としての教育を受けていた時期
  3. まだ女性にも自由と権利があった過去

という3つの時間軸を交互に描写しつつ、物語が進んでいくのが特徴です。

特に「オブフレッドが侍女になる前だった頃」の描写は読者の心を締め付けてきます。
友人と他愛のないバカ話で盛り上がっていた大学時代、
夫ルークと愛娘と過ごしていた結婚生活、
そしてギレアデ成立直後に夫と娘と共に国外逃亡を図っていた時期…
侍女としての現在が息苦しい故に、過去が恋しくなってしまうオブフレッド。

過去というのは時に異様に美化されてしまう時があるもの。
普段の生活においても仕事が忙しかったりすると

のびのび過ごしていた
学生時代に戻りたい…

なんて思う時がありますからね。
私自身、仕事中に何度それを思った事やら(苦笑)

とはいえいくら願っても過去には戻れないもの。
そして思い返す程に過去が美化されてしまい、忘れられなくなる。
そりゃあギレアデ共和国の様な男尊女卑が根付いた息苦しいディストピア国家で
生きる事となればそんな心境になるのも無理はないです。
その上主人公は元々の本名まで奪われて「侍女」として”オブフレッド”という名を一方的に国から与えられる。
侍女は司令官の男性を愛していなくとも、仕事として司令官の子を宿さなくてはいけない…

オブフレッドの置かれた境遇を上記の様に文章化してみると、
つくづく過酷であると改めて思わされます。
寧ろそんな現実で生きなくてはいけないからこそ、「楽しかった過去の思い出」が心の支えになるのかもしれませんね。

こんな方にオススメ

ディストピア小説が好き

権力によって抑圧された世界を描く、反自由的な作品が好きな方にはもってこいですね。
(それ以前にディストピア系が苦手という方はまず読まない…)
そういうディストピア小説を読み、自由と権利の尊さを改めて実感するのも楽しみ方の一つとしてはアリでしょう。
また読書している内に、そんな息苦しい作品の世界を打破する展開が頭に浮かんでしまう…
そんな妄想をして楽しむのもディストピア小説の醍醐味ですね。
私は特にそんな楽しみ方をするタイプですので(苦笑)😅

エグい(グロい)表現に耐性アリ

『侍女の物語』に関しては特にその耐性は重要かもしれません。
ディストピア系作品への耐性以上に…。
とはいえエグさ(グロさ)と言っても、暴力シーンなど直接的なものより、
「精神的な意味でのエグさ」への耐性の有無ですかね。
(壁に吊るされた受刑者の遺体など、作品内には暴力シーンに該当する部分もいくつか登場します)

先にも述べた通り、侍女として司令官とその妻と共に儀式に励むシーンは
精神的にキツイものがあるでしょう。
特に女性にとっては…。

海外ドラマ化も

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2017年からHuluプレミアの海外ドラマとして放映されています。
ただこの作品は映像化されるとキツイものがあります。

私もシーズン1の第一話を試しに観たのですが、精神的にキツくなりました。
なので観るのなら途中で休憩挟むのをオススメします。
慣れてくればぶっ通しで何話も観られる…かもしれませんが(;^ω^)

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